認証試験や性能検査等における不正は自動車業界に限ったことではなく、産業界全体に見られる事象であり、あまりにも頻繁に発覚するので都度採り上げることは見送ってきましたが、トヨタの豊田会長の会見コメントが気になったので、見ていきたいと思います。
今回の事案は、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社の計38車種の型式指定において不正行為が見つかったものです。
先のダイハツ等による不正を受けて国交省が各社に内部調査を求めた結果自発的に出てきたものであるため、更なる不正が隠れている可能性は残ります。
産業界に蔓延する不正テスト
自動車業界に限らずこれまで各社で発生した不正の概要をまとめると、
・認証試験や性能検査等のテストにおいてテスト条件の変更・テスト対象の差し替え・データの改ざん等によりテスト結果を偽装している
・不正が30-40年程度続いている(今回の5社は調査期間を過去10年としているため不正がいつから起きていたかは不明)
このように非常に簡単にまとめられる程度に似通った事案が各方面で発生しています。
あまりにも数が多いため、不正を行うことが全国で奨励されているのではないかと疑いたくなります。
これに対して、各社の再発防止策はテスト担当部門の手続き明確化・マインド改善等の些末な内容に終始していることが多いです。
この程度の再発防止策で是正されればいいのですが、長年の慣行となっていたことと、それにもかかわらず内部監査等により発見されることがなかったことを考えると根はもっと深いように思います。
長く続く不正の歴史は小手先の改善だけでは覆せない
30-40年前というとバブル経済の頃であり、好景気の中で新製品の開発スケジュールを守ることが最優先とされ、その結果製品の一部性能が未達であってもテスト結果を改ざんすることで次期モデルチェンジまでの間をしのぐという判断が行われたのではないかと想像されます。
テストは自社で行っているため外部から改ざんを看破される可能性は低かったということも不正に踏み切る判断を後押ししたと考えられます。
当時不正を行うと判断した人間がおそらく考えていなかったであろうことは、対象製品が生産され続ける限り不正なテスト結果を維持する必要があるということと、別の製品でも同様の事態を迎えるとやはり不正を行うという判断になってしまうということです。
このため不正は恒常的に行われるようになっていきます。
これが30-40年も続くと、当時の末端のテスト担当者が部門の責任者となり、不正を当然のこととしてテスト部門全体に求めるようになっても不思議ではありません。
つまり、不正はテスト部門のカルチャーとして根付いており、手続きの見直し等の小手先の対応では解決しないと考えられます。
テスト部門を総入れ替えして不正カルチャーをご破算にするぐらいの対応が必要と思いますが、現実的ではないとして経営陣に一蹴されそうです。
何でも現場任せにする体質が不正を招いているのではないか
この種の不正は個社の問題と片づけられることが多いですが、一番の問題は最終ユーザーの安全に関わる製品テストが自社任せになっている運営体制ではないでしょうか。
製品開発の一環で行うテストは性能を確認することが目的ですから自社で行っても問題ないですが、認証試験のように公的なテストは規制基準をクリアしていることを確認するのが目的ですから、公的機関が行うか、公的機関から派遣される監察官をテスト現場に置く体制に改めるべきでしょう。
日本では、本来は公的機関が規制遵守状況について取り締まるべきところ、規制の対象となる当事者に取り締まりも任せてしまうことが多く、性悪説に立てば不正が続発するのも当然の状態です。
顧客向けに行う性能検査も、顧客がメーカーを信頼していれば問題ないとはいえ、やはりメーカー任せにしないのが望ましいでしょう。
豊田会長は事態を軽く考えているのではないか
豊田会長の会見コメントで筆者が気になったのは、『不正と言えば不正だが、製品の安全性に問題はない』という箇所です。
不正の当事者の言葉を信じるのは不正なテスト結果を鵜呑みにするのと大差がありませんので、国交省が安全性について担保する必要があります。
しかし、筆者が気になったのはそこではなく、コメントの前半部分です。
豊田会長は、認証試験にて本来行うべきテストよりも厳しい基準でテストしたことが今回の不正であり、より厳しい基準だから他社の不正とは違って問題はないと主張したいわけです。
製品の性能を評価するだけならば確かにその通りかもしれません。
しかし、認証試験が求めるものとは異なる条件でテストしているのですから、全く問題ないとは言えません。
高校の入試において、提示された入試問題を解く代わりに東大の入試問題を解いて見せれば、高い能力の持ち主であることは証明できるかもしれませんが、肝心の入試問題に答えていなければ合格にはなりません。
より厳しい条件でもテストをクリアできる自信があったならば、なおのこと認証試験にて定められた条件にてテストを行うべきでした。
より厳しい方向とは言え、条件を勝手に変更したことは認証試験制度を軽視していることの表われです。
豊田会長は自ら制度軽視を露呈してしまいました。
テスト部門のみの責任なのか
これらの不正問題ではテスト部門に全責任を負わせているケースが多いですが、開発部門も共犯ではないでしょうか。
製品の性能について一番熟知しているのは開発部門ですから、性能スペックが不足している製品についてはテスト部門が不正をしなければテストをクリアできないことは分かっていたはずです。
長年不正が続けられていたならば両部門において不正は既知の事実となっていたはずです。
そうなると、エンジニア出身の取締役は、不正が行われていることは知っていた可能性が十分にあります。
つまり、直接的に指示はしていなくとも経営陣は不正に関与していた可能性があると考えるのが妥当でしょう。
経営陣によるコンプライアンス軽視だけでもガバナンス的に大いに問題がありますが、不正関与ともなればガバナンスが働いていないと考えざるを得ません。
このタイミングでのガバナンス不全発覚ですから、今月行われる株主総会での役員選任にも影響するかもしれません。
日本製品の品質の高さがユーザーからの信頼に繋がっていたわけですから、それを蔑ろにしていた事実は国内外に与える影響は決して小さくありません。
特に今回は国内外における知名度の高いメーカーばかりですから、買い控えから他国のメーカーに利することになりそうです。
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