企業と株主の対立:フジテックvsオアシス

2022-06-06

エンゲージメント フジテック

 株主総会のシーズンが近づいてきました。一部の企業では株主との「対話」がヒートアップしているようです。

 6月23日に定時株主総会を予定しているエレベーター機器大手のフジテックは、ガバナンスに問題があるとして大株主のオアシス・マネジメント(5月18日時点保有率:9.73%)より創業家支配を打破すべく社長再任に反対の姿勢を示されています。

 フジテックは1948年創業、1963年上場しており、現在の内山高一社長は創業者の長男という創業一族支配の企業です。

 業界大手ではあるものの成長が見られず、その一因が同族支配によるガバナンスの欠如にあるとオアシスは見ているようです。

 オアシスが具体的に問題にしているのは、フジテックと内山家が保有する企業との間で多数の疑わしい取引があるということです。詳細を確認されたい方ははオアシスの特設サイトwww.ProtectFujitec.comをご覧ください。

 この「内山家が保有する企業」の実態は分かりませんが、オアシスが公表している資料によればフジテック株や不動産を保有する法人が複数あるようです。おそらくは内山高一社長と息子の内山雄介常務の資産管理会社と思われます。これらの内山ファミリー企業は保有している不動産はフジテックのオフィスや社員寮等として使われており、フジテックは賃料を支払っているだけでなく、不動産取得資金を貸し付けたり、債務を保証したりと多くの便宜を図った挙句に、内山ファミリー企業から当該不動産を取得しているとのことです。

 個々の取引は関連当事者取引として適正に処理されているのかもしれません。しかし、多くの取引が繰り返されているという事実は、本当は利益供与があるのではないかという疑念を生じさせますし、何故これほど多くの取引が内山家との間に発生しているのかということにも疑問を感じます。

 オアシスは以下の取引および行為に疑問を投げかけています。

  • フジテックが内山家の私的利用のために超高級マンションを取得した疑惑
  • フジテックは内山社長の保有する法人に莫大な額の現金を貸付
  • フジテックから内山社長が保有する法人に不明な賃料支払い
  • フジテックが非公開会社の株式を内山社長が保有する法人に売却
  • 内山社長が保有する法人の行った投資の失敗を補填させるため、その物件をフジテックが買い取った疑惑
  • 内山社長が保有する会社に密接な関係を持つ個人経営の税理士をフジテックが起用して、報酬を支払った疑惑
  • 内山社長が自宅の庭の手入れにフジテック社員を利用した疑惑

 これらの主張についてオアシスは詳細に調べており、かなり説得力があります。

 もちろん、いずれも正当な取引であると説明できるものかもしれません。

 フジテックからは「当社では、当該主張は全くあたらない又は事実誤認に基づく主張であると認識しております。本取引は、いずれも所定の法令・手続等に従ってなされた適法かつ適切な取引及び行為であり、企業統治上も問題はないものと考えております。」という短いリリース文による回答が5月20日にありました。

 主張が全くあたらないのはなぜか?誤認された事実は何なのか?何も情報が提供されなかったために、当該取引及び行為が適切であったと判断できる手掛かりが何もありません。すべてが正当ならば正々堂々と論破すればいいだけなので、このような短文のリリースで済ませる対応では、オアシスが納得しないだけでなく他のステークホルダーの疑念も払拭できるはずがありません。

 実際、オアシスからはリリースに対する反論の声明が5月25日に出されており、それによると提起された諸問題について社内調査は完了しておらず、リリース内容について取締役会は承知していないことをフジテック社外取締役に確認したとのことです。

 それが事実であるとすると、経営に対して重大な嫌疑が提示されている状況で取締役会が蚊帳の外に置かれているということであり、それだけでもガバナンス不全と言わざるを得ません。

 さすがにフジテックも対応の拙さに気が付いたのか、社内調査を完了させたうえで、5月30日付で改めて一連の関連当事者取引に問題はないことを示しました。今回のリリースではオアシスが列挙した7つの点について説明を試みています。

 初回のリリースに比べると格段にまともな対応となりましたが、オアシスの疑問すべてに回答していないことや、回答内容から新たな疑問が浮上する箇所もあり、全面的にフジテックの言い分を信じていいのか躊躇させられます。

 また、5月30日リリースは、法令違反・手続き違反がないことに力点を置いて書かれている印象があるのですが、オアシスが主張しているのはガバナンスの問題であるため、本質的なところで論点が終始ずれているように感じられます。

 フジテックが弁明するように個々の取引には問題がなかったとしても、創業家支配が長く続いていることが不透明な取引を多く発生させる余地を作り出していることは疑いようがありません。しかし、別リリースでは、臨時取締役会において内山社長の再任について再決議したとありますから、フジテックとしては創業家支配を改めるつもりは一切ないと表明したことになります。

 関連当事者取引はコーポレートガバナンス・コードでも言及されていることから、機関投資家も本件について無関心ではいられません。フジテックの2回目リリースがなければ、オアシスに賛同した機関投資家は多かったのではないでしょうか。2回目リリースを受けて納得した機関投資家も、経営者には経営に集中してほしいですから、社長再任には賛成したとしても何らかの注文を付けるかもしれません。株主総会でどのように決着するのか注目です。


《6月10日追記》
 フジテックが5月30日リリースにて調査報告書を公表して以降、動きがありましたので追記します。
  • オアシスから調査は不十分として多くの反論や疑問が提示されました(詳細は特設サイトをご確認ください)。
  • 議決権行使助言会社ISSとグラスルイスが、内山社長再任について反対推奨としました。調査報告書の内容が株主に対して不誠実と感じているようです(注:筆者は推奨レポートを確認できておらず、オアシスがその旨を開示したものです)。
  • フジテックは関連当事者取引を今後行わないという方針を表明しました(「原則として」という言葉が付いているので、内山家は例外扱いとする余地がありそうです)。
議決権行使助言会社2社の反対推奨はフジテックも承知しているはずですが、何らかの抵抗を試みるのでしょうか?

《6月23日追記》
 23日はフジテックの株主総会会日ですが、その当日にフジテックは内山社長の再任案を撤回すると発表しました。
 議決権行使の大半は前日夕方までに行われるため、締め切った時点で反対票が過半数を超えていることが確認され、株主総会で再任が否決されるという不名誉を被るよりは、議案撤回により内山社長の体面を守ることにしたものと思われます。
 関連当事者取引は今後行わないと8日に発表した後、17日には調査をやり直すと発表していました。取引は問題ないと結論付けた当初調査結果で乗り切れると軽く見ていたところ、それだけでは足りないという反応が株主から返ってきたため、追加対応として今後は取引を行わないと宣言したのでしょう。それでも株主は納得せず、調査のやり直しにまで追い込まれたものの、これで事態は収拾したものと思いきや、結局株主たちは反対票を投じていたことが判明したというのが今回の流れではないかと推測します。
 小出しの対応はフジテックが株主を軽んじていることの表れで、機関投資家の間ではガバナンスに問題のある銘柄という印象を強くさせる結果に終わってしまいました。
 また、再調査の結果、取引に問題がないと認められれば臨時株主総会にて内山社長の選任案を再度提示するとフジテックは言っています。疑惑が晴れたのだから再登板しても支障ないという考えでしょうが、多数の関連当事者取引を行っていたことは事実ですし、それにより今回の疑惑と混乱を招いたことも払拭できません。そのような人物が再登場することを機関投資家は許すのでしょうか?

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