なぜガバナンス不全の企業は記者会見で失敗するのか フジテレビ事例

2025-01-23

ガバナンス フジテレビ

 先日のフジテレビの港社長の記者会見は笑ってしまうぐらい盛大に失敗しました。

 フジテレビの具体的な責任については今後の調査に委ねるしかありませんが、ガバナンスの欠如を露呈しており、早急に是正することが求められます。


【記者会見詳細】フジテレビ社長 記者とのやり取りQ&A


 フジテレビがなぜ記者会見で失敗したのか考えてみたいと思います。


 企業が記者会見で失敗する理由は主に以下の3つです。

(なお、ここでいう記者会見はトラブル等に際して釈明・謝罪等のために行う会見のことです。)


①経営者が記者会見に慣れていない

②経営者がメディアに釈明する必要性を感じていない

③経営者が何かを隠そうとしている


 1つ目の点は、中小企業の会見で起きがちです。

 企業が会見を設定したことがない、経営者が会見に臨んだことがない等の経験不足や準備不足から、会見における振る舞い方が分からず、その結果心証を悪くし、ダメージコントロールに失敗するケースです。

 フジテレビは社長が定例的に記者会見を開催していますから、これに該当しないことは明らかです。


 2つ目の点は、トラブル等の事案における関係者にメディアは含まれないと経営者が勘違いしているケースです。

 なぜ記者に釈明しなければならないのかと憤る経営者がたまにいますが、記者の裏にいる視聴者達が取引先・株主等のステークホルダーかもしれないことに考えが及ばないようです。

 しかし、報道機関のトップとして港社長がそのような勘違いをしていたとは考えにくいです。

 仮に、そのように考えていたのであれば、会社の置かれた状況をまったく把握できていなかったことになり、経営者としての資質に疑問符が付きます。


 前2者の可能性が考えにくい以上は、3点目に該当し、港社長は何かを隠そうとしているという疑念を多くの記者や視聴者たちが抱いたということです。


 疑念を抱かせる状況は、記者会見が始まる前から生じています。

 新聞社等が加盟する記者クラブからの要請で会見を開催したとの理由から、テレビ局各局はオブザーバー参加とし、他のジャーナリストの参加は認めませんでした。

 撮影についても冒頭の写真撮影のみが認められ、テレビ等による動画撮影は認めませんでした。

 質疑も記者クラブ加盟の記者のみが認められました。

 記者からの厳しい追及から不用意な発言を行い、それがテレビ等で流されてしまうことを恐れたのでしょうが、報道機関のトップとしてそれがジャーナリストたちの強い反発を招くであろうことが分からないはずがありません。

 そのような反発を受ける覚悟をもってこのようなフォーマットで会見を開催したということは、それほどまでに隠したいことがあると受け止められて当然でしょう。


 会見が始まってからも疑念を抱かせる状況が続きます。

 会見前半は港社長からの説明となりますが、調査委員会を設置することにしたという以外に中身のない説明でした。

 中居正広氏と女性とのトラブルそのものについてはプライバシー等の観点から回答できないとすることは一定の理解が得られると思いますが、この事案に関して調査・処分・再発防止対応が行われたか一切言及がなかったことは不可解です。

 一方、昨年来より外部弁護士を交えて社内確認を進めてきたとの言及がありました。

 一見すると事案についての調査が行われていたように見えますが、トラブルを認知したのは2023年6月ということですから、少なく見積もっても半年以上は会社として何ら調査していなかったと言っているのに等しいです。

 しかも、この社内確認は報道で指摘されたことの事実関係についてということですから、昨年12月頃に始まったと解されます。

 つまり、被害女性のプライバシー保護を大義名分として、1年半以上会社はこの問題を放置していたということであり、ここにきて経営陣は責任問題となる可能性を危惧して社内調査を始めたということではないでしょうか。

 質疑応答では、調査委員会に委ねるため回答を控えると港社長は繰り返し発言していましたが、何もせずに放置していたから答えられることがないというのが実態ではないかと考えられます。

 この『何もせずに放置していた』という点が、港社長が隠そうとしていることではないかと筆者は推測しています。

 放置していたことは単なる不作為かもしれませんが、それを明らかにすることなく会見を乗り切ろうとしたのであれば、それは隠蔽と言います。


 調査委員会設置は一歩前進のように見えますが、独立性が担保された第三者委員会ではないと港社長は言明していますので、ここでも経営陣の思惑が透けて見えます。

 日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会はもっとも独立性・中立性が担保される枠組みですが、これは調査内容から結果報告に至るまで経営陣は一切関与できないため、経営陣にとって不利益となる事実が公になる可能性があります。

 一方、港社長が掲げた調査委員会は、調査範囲・調査手法等を決定するのは経営陣であり、委員会メンバーにも経営陣が加わるため調査の方向性を左右することができ、結果報告についても経営陣が精査したうえで公開するか判断することになるため、あらゆる段階で経営陣の意向が働くことになります。

 日本テレビがドラマ制作に係るトラブルに際して設置した調査委員会がまさにこの種のもので、その報告内容はまったく無意味なものでした。

 フジテレビ経営陣も、責任問題とならないよう厳格な第三者委員会の設置は望んでいないのでしょう。


 この調査委員会については社外取締役から日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会とするよう申し入れがあったと報じられています。

 このことは、調査委員会設置に関して経営陣は社外取締役に話を通していなかったことが窺えます。

 調査委員会設置は取締役会の専決事項ではないので社長の一存で設置しても問題はありませんが、社内の問題を調査するための委員会の設置について何も話をしていないのであれば社外取締役を軽んじていることの証左ですし、設置について聞いていたのであれば社外取締役が機能していないことになります。


 隠すことが何もないのであれば厳格な第三者委員会の設置を拒む合理的な理由はありませんから、これを主張する株主や社外取締役の意向は通るでしょう。(と書いていたら、日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会の設置が決定したとの報道がありました。)

 しかし、この問題はそれで終わるのでしょうか。


 記者会見以降、スポンサー企業の半数近くがコマーシャル差し替えに踏み切っています。

 スポンサー企業はフジテレビを罰するために差し替えに踏み切っているのではなく、コマーシャルを継続することがフジテレビの姿勢を支持していると受け止められればイメージダウンに繋がるので、異例ではあるものの当然の対応と考えられます。

 問題は、どうなればコマーシャルを再開してもらえるのかということです。

 現状は別コマーシャルに差し替えてもスポンサー企業が広告料を負担し続けている状況ですので、フジテレビにとっては直ちに減収となっているわけではありません。

 スポンサー企業はフジテレビを潰したいと考えているわけではなく、是正すべきことがあれば詳らかにし対応することを求めているはずです。

 しかし、この状況が長引くようであればコマーシャル契約を満了させ、更新しないという判断に動かざるを得なくなります。

 そのタイミングは恐らく春の番組改編時期と考えられます。

 つまり、フジテレビはそれまでに調査・処分・再発防止について一定程度報告できなければ、スポンサー企業の流出という事態に直面する可能性があります。


 次に問題となるタイミングは定時株主総会です。

 フジテレビに第三者委員会の設置等の要請を株主であるアクティビスト・ファンドが行っていることは報じられているところですが、公にしていないだけで同様の要請は株主である機関投資家からもESG投資の観点から行われていると考えられます。

 コマーシャルを差し替えたスポンサー企業のうち保険会社等は機関投資家でもありますから、株主としても適切な対応を求める要請を行っていなければ一貫性がありません。

 議決権や株主提案権を行使すべく株式を取得している個人株主も増えているとされていますので、総会までにフジテレビが十分納得のいく対応をしていなければ、株主たちが暴れる可能性があります。


 つまり、第三者委員会の設置がゴールではなく、早期に十分な内容の調査結果が提示され、それを踏まえた処分や会社の再発防止策に至ることで、ようやく事態の収拾が望めます。


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