今回の舞台は日本ではなく英国です。
What is Fujitsu, the Japanese IT company at centre of Post Office’s Horizon scandal
何が起きたのか
英国の郵便事業会社であるポスト・オフィスが1999年より富士通子会社の勘定系システムを段階的に導入しました。
システム導入後に、現金の残高がシステム上の残高よりも少ないという事象が散見されるようになります。(これが事件の発端となるシステム上の欠陥です)
富士通側がシステムに問題はないとしたこともあって、ポスト・オフィスは700名以上の郵便局長たちを横領や詐欺で訴えることとしました。(職員による不正行為は多いのかもしれませんが、700人も訴えて何かおかしいと考えた人はいなかったのでしょうか)
訴えられた人たちは残高の差額を自腹で埋めることを拒んだ人たちなので、実際の被害者はさらに多く存在します。(現時点で補償プログラムに申請している人は4000人以上いるそうです)
被告の郵便局長たちは無実の証明ができず、投獄を回避するために不本意ながら有罪を認めたケースも少なくありません。
ポスト・オフィスは有罪判決を理由に資産差し押さえにも動いたため、その結果自殺者や破産者を生み出しました。
ポスト・オフィスと富士通の誤った対応が、多くの人生を破壊したわけです。
2019年になって、ようやく裁判所はシステムの問題を認め、一部の被害者は有罪判決が取り消されましたが、依然無罪を勝ち取るために争っている人たちもいます。
BBCがこの事件を題材としたテレビドラマを年始に放送したため、英国では史上最大の冤罪事件と評されるこの不祥事が再びクローズアップされ、世論に突き動かされた政府・議会が対応に動き始めています。
富士通のシステム障害の歴史
2002年:みずほ銀行発足初日に勘定系システムが障害を起こしたことでATMが使えない・口座振替が行われない・二重引き落としが起きるといった事象が全国で発生
2005年:東証の取引システムが注文取り消しを受付なかったために巨額損失が発生
2011年:東日本大震災の義援金の受取口座がみずほ銀行にあったため、大量の件数を処理できずにシステムが停止
2020年:東証の取引システムの故障およびその後のリカバリー対応の不手際により証券取引が終日売買停止となる
2021年:みずほ銀行で3度目のシステム障害が起きたことで、ATMが使えない・キャッシュカードがATMに取り込まれる等の事象が全国で発生
2023年:マイナンバーカードのシステム不具合で他人の住民票が発行され、受付が暫時停止される
上記のシステム障害のなかには富士通の責任ではないものもあると思いますが、これだけ起きていると富士通の開発・保守態勢に疑問を感じざるを得ません。
富士通の責任
本件においては、郵便局長らの境遇を招いたのは犯罪行為と判断したポスト・オフィスですが、その原因を作ったのは富士通であるため、補償金全額の負担を求めるなど英国民からの風当たりが強くなっています。
本件の直接の原因となったのはシステム上の欠陥ですが、この事件の真因はシステム開発に係る態勢の問題、すなわち起こるべくして起きた人災の可能性があります。
富士通は新システム稼働に先だって、1995年より一部の郵便局にパイロット版を納入しています。(システムを開発した英ICLを富士通が買収する前のことであるため、厳密にはシステム導入時において富士通は関与していません)
試験的に運用されたパイロット版システムでも勘定の不突合が指摘されていたものの、この時も横領として処理されたようで、システムについて再検証されないまま本格導入に踏み切ったことになります。
システムの稼働状況を検証することがパイロット版の目的であるはずのところ、不具合の可能性をフォローアップしないならば何のためのパイロット版か分からなくなります。
この段階でしっかり検証されていれば、本格導入時のトラブルは未然に防げていたかもしれません。
冤罪が発生した主たる責任はポスト・オフィスにあるものの、幾度もシステム不具合を指摘されながら長年放置してきた富士通の責任は大きく、英国人の怒りの矛先が富士通に向かうのも当然といえます。
ガバナンスが働いていない会社を買収するリスクや、子会社に対するガバナンスが十分ではないリスクが顕現化したのが今回の事案です。
英政府が今更ながら動き出したことも考えると、富士通は大きな代償を払わされることになるのではないでしょうか。
富士通もその覚悟ができているのか、議会ヒアリングでは規模については明言しなかったものの補償金を負担する用意があると幹部が発言しています。
この発言を受けてマーケットも遅ればせながら事態の深刻さに気づき、株価が急落しました。
日本のマスコミは富士通の責任を重く見ていなかったため事件の扱いが軽かったことが原因で、市場参加者の多くは現地報道に無頓着であったことが窺えます。
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