米ワールドコム社の粉飾決算事案では、株主の利益を守るべき立場にある監査法人が関与していたこともあってガバナンス体制の有効性が問われることとなりました。
米国では企業業績に連動する役員報酬制度を導入している会社が多く、会社の将来成長よりも自身の目先の報酬額を優先させるような姿勢の経営者が現れるたびに、株主利益を守るべく経営監督の強化が求められてきました。
アクティビストと呼ばれる投資ファンドの台頭により、株主が経営陣に対し株主利益を高めるよう積極的に求めるようになったこともガバナンス強化の動きを支えてきました。
上記はあくまでも一例にすぎませんが、このような背景から海外ではコーポレート・ガバナンスを強化する動きが先行していました。
日本では監査役が株主のために経営監督を担うよう制度設計されているものの、実態としては社内の人員を内部昇格させて監査役とするケースが多く、したがって監査役は株主よりも社長の意向に従う人材が占めてきました。その結果、経営監督を担う人材が実質的に不在という経営陣にとって極めて都合の良い状態が長らく続いてきました。
ガバナンス強化で先行する海外の投資家もこの状態には不満があり、制度の改善を求め続けてきたところ、海外投資家を呼び込みたい思惑の政府が指名委員会等設置会社の機関設計を追加することとなりました。
つまり、国内関係者はガバナンスの状況は改善が必要という意識はあったものの、外部からの圧力の高まりを受けてようやく動き出したということです。しかし、監査役という都合の良い制度を手放したくない会社がほとんどで、実際に機関設計を変更したところはほとんどありませんでした。
その後は、アベノミクスの一環として攻めのガバナンスを推し進めることで株価を押し上げたいという思惑からコーポレート・ガバナンスが再び脚光を浴びるようになり、コーポレートガバナンス・コードの制定や会社法の改正が行われました。
国家戦略としてコーポレート・ガバナンスを推進することとなり、スチュワードシップ・コード制定により機関投資家をその推進役に据えたことで、経営陣にとって無視することはできないキーワードとなったものです。