株主総会
株主が会社に対してガバナンスの観点で直接働き掛けることができるのは株主総会においてです(意見表明するだけならば株主総会以外の場でももちろん可能ですが、ここで言う直接の働き掛けとは議決権行使のことです)。定例的な株主総会の議題のうちガバナンスに関わってくるのは取締役・監査役の選任となります。しっかりとしたガバナンス態勢を構築し運用してくれる取締役・監査役を選任し、ガバナンス上問題がある役員候補は否認することになります。
スポット的に定款の改定が議題となることもあります。会社側が提案するのは今後行いたい新規業務にあわせて定款の内容を変更したいような場合ですが、この機会を捉えて株主よりガバナンスを強化する改定内容を提案することができます。
役員報酬の議案もガバナンスに関わってきますが、報酬上限を決めるだけの内容にしている企業が多く、改定の必要がある場合しか議案が上程されないため、株主が議決権を行使できる機会はあまりありません。報酬委員会がしっかり機能している企業ならば問題ないでしょうが、報酬決定を社長に一任しているような企業については株主総会で個別役員の報酬を決定するか、社長への一任を許さない建付けに変更すべきでしょう。
個人投資家であれば株主として出来ることはこの程度しかありませんが、機関投資家はスチュワードシップ・コードでも求められているように、ガバナンスが不十分な企業には改めるように面談等を通じて働き掛けることとしています。言うことを聞かなければ議決権を行使して経営陣を否認するという圧力をかけている訳です。
取締役会
株主総会にて役員が選任されることで取締役会が構成されます。選任時に明示されていないかもしれませんが、取締役は執行の取締役と監督の取締役に分かれます。監督の取締役は社外取締役・独立取締役・それ以外の取締役に分かれ、監査役は社外監査役・それ以外の監査役に分かれます。上場企業の場合、社外取締役・社外監査役は法令により設置義務を課せられています。
「社外取締役」「独立取締役」は概念としては似たようなものですが、社外性の基準は会社法によるものであり、独立性の基準は東証によるもので、基準に差異があるため独立性基準を満たす社外取締役(独立社外取締役という言い方もします)と独立性基準を満たさない社外取締役が存在します。社外性基準を満たさない独立取締役は存在しないので、「それ以外の取締役」は独立性基準・社外性基準いずれも満たさない取締役となります。
「社外監査役」「その他の監査役」は社外性基準を満たす監査役・満たさない監査役となります。
取締役会はマネジメント・ボードとモニタリング・ボードの2種類に分かれます。前者は執行を主体とする取締役会であり、後者は監督を主体とする取締役会となります。取締役会は会社の最高意思決定機関ですが、前者の場合は経営執行の意思決定機関も兼ねる一方、後者の場合は経営執行の意思決定は別の機関に委ねることとなります。
日本の会社は伝統的にマネジメント・ボードであり、モニタリング・ボードへの転換が促されています。マネジメント・ボードの場合、経営執行の意思決定の邪魔になる監督サイドの取締役・監査役を最小限にしようとする思惑が働きます。また、日本の会社では取締役は会社員の出世の最高到達点と位置づけられてきたため、そのような取締役主体で構成された取締役会に社外役員を投入しても、社長が常に票の過半数を掌握していることから監督機能が十分に発揮されるとは考え難いです。そのため、ガバナンスを強化するならば取締役会の過半数が社外取締役という構成のモニタリング・ボードに転換すべきであり、監督サイドに余計な圧力が働かない態勢となるよう会社が考慮していることが外部からも分かりやすいです。