しかし、実効的な運用はできているのでしょうか?外部者である株主等のステークホルダーは、取締役会等においてどのような経営判断が行われ、どのような監督が行われたのか窺い知ることはできません。ガバナンス態勢について積極的にアピールしている企業もありますが、形式面については確認できても実効性の面ではやはり確認が難しいのが実状です。不祥事が起きておらず、しっかりと業績が上がっていることでガバナンスが働いているものと信じるしかありません。
裏を返せば、不祥事が起きた時には実効性を確認する機会が到来します。不祥事に至るまでの管理監督の状況や、発生後の対応状況からガバナンスの発揮度合が垣間見えます。
最近の事例のうち分かりやすい例として、みずほのシステム障害について見てみます。繰り返し発生したシステム障害のうち2021年2月に起きた障害では、ATMが利用できなくなっただけでなく、カードや通帳を取り込んでしまい直ちに返却してもらえませんでした。取り残された利用者からの問い合わせでコールセンターがパンクする一方で、社内関係者への通知が遅れたため、会社としての対応は遅れに遅れました。
この障害は、利用者への対応の悪さが目立ちましたが、そもそもの原因も気になるところです。報道によれば、紙の通帳を全面的に廃止する計画から切替オペレーションを実施したところ、通常取引のオペレーションと合計したオペレーション件数がシステムのキャパシティを超えてしまったために生じた障害ということです。オペレーション件数の見積もりが甘かったということになりますが、通帳切替のオペレーションは対象件数が予め判明していますから、通常取引オペレーションの件数の見込みが過少であったことになります。
通帳廃止は通帳発行に伴う税負担を軽減することを画策したもので、節税効果を発揮するためには年度内に実施する必要がありました。そこで実施時期として選ばれたのが2月末でした。ご存知の方も多いと思いますが、月末は取引決済が集中する日です。その繁忙な月末の中でも2月末は他の月であれば28日・29日・30日・31日に分散する決済が集中することとなる(2021年においては26日・27日分も重なる)ため、相当な集中度合いとなることが容易に想像されますが、見積もり者はそのことを過小評価していたのでしょう。このようなタイミングで大規模オペレーションを行うのは愚の骨頂としか言いようがありません。
通帳切替の計画について取締役会にて説明がなされた際に、2月末にこのような大規模オペレーションを実施して支障ないのかという疑問を銀行出身や企業実務経験のある取締役ならば抱いて当然でしょう。しかし実際には予定通りに行われたわけですから、経営執行・監督ともに疑問を挟むことなくゴーサインを出したことになります。この段階でチェックが入っていれば未然に防ぐことが出来たわけですから、経営判断に問題があったということであり、その監督をする社外取締役も機能していなかったことになります。(ちなみに、金融庁の指摘である『言うべきことを言わない』は職員についての指摘であると見られがちですが、本事案のように役員が機能していないことの指摘であると筆者は考えています。)
高度な経営判断が求められた事案ではないだけに経営責任は重大であり、この障害一つをとっても杜撰な計画の責任者であるCIOが更迭されて然りと筆者は思いますが、それを見逃した負い目があるからなのか取締役会がそのように動いた形跡はありません。その後も障害は続きますが、金融庁が介入し経営責任の明確化を求めるまでは誰一人責任を問われることもなく経営が続けられていました。
システム障害に関しては、十分な体制を敷いていたとしても完全に回避することは難しいですが、2月の障害に限って言えば切替オペレーションのタイミングを再考していれば回避できたのですから、不適格な経営執行部が引き起こした人災であり、社外取締役も監督責任を果たさずに看過していたことになります。
みずほは指名委員会等設置会社であり、形だけは立派なガバナンス態勢を構築していましたが、中身は不十分どころか全く機能していないことが一連のシステム障害のおかげで明らかになりました。このため、みずほとしては金銭的損失だけでなく、銀行にとって最大の資産である「信用」を大きく棄損する結果となりました(もっとも、就職人気ランキングでは相変わらず上位に入っているようなので、もはや恒例行事として受け入れられているのかもしれません)。
形式的には充実していても実効性を伴わないガバナンス態勢は、このような不祥事を引き起こしかねないことを経営者は肝に銘じておくべきでしょう。
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