※コンプライ率:『コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)』(東証)にて公表されている各原則のコンプライ状況のうちプライム市場選択会社のコンプライ率を記載しています。
基本原則2【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】(コンプライ率:99.84%)
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
企業には株主以外にも様々なステークホルダーと関係を有しており、その関係は両者にとってメリットのある関係であることが望まれます。従業員から搾取するようなブラック企業は成長することは期待できないでしょうし、顧客等と良好な信頼関係が築けないようであれば顧客離れを引き起こすことになるでしょう。そのようなことが無いよう、適切な関係を構築することで持続的な成長を図っていくことが求められています。
とくに、基本原則2の「考え方」においては、2021年改訂ではサステナビリティについて対応を進めていくことが一段と強調される内容に修正されています。それだけ社会との関係が重要視されてきています。
コストが掛からない範囲での対応ならば反対する経営陣もいないでしょうが、脱炭素といった大きなサステナビリティ課題について対応しようとすれば多大なコストを覚悟せざるを得ず、場合によっては事業の再構築にまで踏み込むことになるため、経営陣としては二の足を踏みたくなるでしょう。
しかし、実際に躊躇うばかりで進捗が見られなければ、サステナビリティへの対応が不十分と金融機関は融資を渋るようになり、投資家は株式・債券への投資を回避するようになるかもしれません。顧客や取引先も対応状況については関心があるでしょうし、従業員も経営陣の姿勢を注視しているでしょう。対応次第では様々なステークホルダーが離れていくことになるかもしれず、それによる損失のほうが対応コストを上回るかもしれません。
原則2-1【中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】 (コンプライ率:100%)
上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきである。
企業の持続的な成長のためにステークホルダーと適切な関係を構築していくことについて、社内外に経営陣の考え方を示すことが求められています。
原則2-2【会社の行動準則の策定・実践】 (コンプライ率:100%)
上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである。取締役会は、行動準則の策定・改訂の責務を担い、これが国内外の事業活動の第一線にまで広く浸透し、遵守されるようにすべきである。
原則2-1にて策定された経営理念に基づき、企業の役職員が従うべき行動規範を定めることや、その徹底や監視を行うことが求められています。
補充原則2-2① (コンプライ率:99.51%)
取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、適宜または定期的にレビューを行うべきである。その際には、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否かに重点を置くべきであり、形式的な遵守確認に終始すべきではない。
原則2-2で定めた行動規範の実践状況の確認を求めています。行動規範に反するような行為がなかったことを確認する(=形式的な遵守確認)だけでは不十分であり、各人の考え方としての定着度合いも見るべきとしています。
原則2-3【社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】 (コンプライ率:99.13%)
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。
基本原則2の「考え方」にあるように、サステナビリティ課題への対応が求められています。
サステナビリティ課題について適切に対応するためには、社会からの要請が変化してきていることを踏まえることのできるガバナンス態勢が不可欠です。
補充原則2-3① (コンプライ率:93.85%)
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。
2021年改訂において、サステナビリティ課題が具体的に例示されるとともに、重要な経営課題としてより積極的な検討を求めた書き振りに修正されました。
サステナビリティ課題に対応しないことによるステークホルダー離れのリスクについては先に述べたとおりですが、ここでは対応することによって生まれる収益機会についても言及されています。対応しない企業の顧客等がシフトしてくるかもしれませんし、新しい技術や商品の開発、あるいは新しい事業分野の創出に繋がる可能性もあります。
原則2-4【女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】 (コンプライ率:99.84%)
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。
優秀な経営者であれば多様性のある組織のほうが柔軟且つ強靭な組織になることは重々承知しているはずですが、似た者同士を集めたような企業が多いのが現実です。人材の流動性が低い、海外からの移住者が少ない、個の発揮を良しとしない国民性など挙げられる理由は色々とあります。
ここで女性の活躍推進だけが強調されているのは多様性の確保以外の意図があるようにも感じられますが、多様性の指標として客観的に把握しやすく且つすべての企業に適用できるというのも事実です。
補充原則2-4① (コンプライ率:70.02%)
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。
この補充原則は2021年改訂時に新設されたものです。
多様性の確保を推進するうえでは、企業の姿勢や実施状況を見ていく必要があるのは補充原則の内容通りですが、多様性の対象は女性だけではないことを示すために設けられたようにも見えます。
多様性を意識した人材戦略を考えてこなかった企業としては実務上かなりの難題ではないかと思います。コンプライ率の低さは、どのようにコンプライしたらいいかを悩んでいる企業がそれだけ多いということではないでしょうか。
新卒採用を主体とする日本の企業では、それらの人材が管理職登用の時期を迎えるまでに相応の時間が掛かります。直ちに対応しようとすれば管理職登用を前提とした中途採用に頼るか、一般職採用でも管理職登用の対象とする方針変更が必要になります。
女性・外国人・中途採用といった外形的な多様性だけでなく、価値観の多様性も企業は追求すべきと筆者は考えますが、そのためには社員を会社の価値観に合う組織人に育てることを育成方針としてきた企業は、大きな意識改革も必要となります。
本補充原則に関連して、企業の人材投資の状況について開示を求める指針を政府は現在作成中であり、有価証券報告書への記載を義務化する方針とのことです。
原則2-5【内部通報】 (コンプライ率:99.95%)
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。
内部通報制度は従業員・取引先等と健全な関係を維持するうえで欠かせない制度です。経営陣が見逃している問題点をボトムアップで伝達する仕組みの一つとしても有意義です。
通報先である経営陣自体が信頼を失っていれば、わざわざ通報しようという気持ちも減退し、問題が放置された状態となり、ゆくゆくはより大きな問題となって返ってくるかもしれません。内部通報制度を設置するだけでなく、経営陣は通報内容を適切に評価し活用・対処することで信頼を獲得しなければなりません。
通報件数が少ないほうが望ましいと考える経営陣もいると思いますが、会社規模が大きくなれば目が届かない所もそれだけ増えてきます。小さな問題点であっても躊躇うことなく通報できているということは経営陣がそれだけ信頼されているということにもなるので、通報件数が少ない企業は経営陣と従業員との距離が大きいと考えるべきでしょう。
補充原則2-5① (コンプライ率:99.02%)
上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。
通報された情報が経営陣にとって都合の悪いものであれば、経営陣は通報を隠蔽したり、通報者を罰したりするかもしれません。そのような行為を排除するためには独立性のある社外役員を窓口とすることは一定の合理性がありますが、社外役員であっても経営陣寄りの方もいるでしょうから完全な解決方法ではありません。
内部通報窓口のサービスを提供しているところもありますが、独立性の点では申し分ないものの、通報された情報の評価や活用は行わないため、こちらも完全な解決方法にはなりません。
原則2-6【企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】 (コンプライ率:97.93%)
上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。
企業年金の運用がうまく行くことは従業員にとっても企業にとっても望ましいことです。自前で運用するならば、そのための専門スタッフの配置が必要となりますが、ほとんどの年金は資産運用のプロに任せていると思います。しかし、その場合でも運用を委託する先の選定において適切な知見を有する人材を活用することが求められます。つまり、運用に関わることは素人に関与させるなということです。素人判断で委託先を決めたら投資詐欺だったというようなことが起きかねません。
また、利益相反管理についての言及がありますが、これは経営陣が年金資金を自社の都合のために利用することを牽制するものです。例えば原則1-4にて株式の政策保有が難しくなったことから、年金資金を使って株式保有することを経営陣が考えるかもしれません。企業や経営陣にとってメリットがあると政治的に判断されるからこそ保有したいわけですが、年金にとってはその株式を保有する合理性がないと考えられ、保有することのリスクを押し付けられた格好になります(合理性があるならば、そもそも年金に押し付けるようなことは起きません)。受益者の立場からすれば、そのような不健全な運用があってはならないのは当然のことです。
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