※コンプライ率:『コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)』(東証)にて公表されている各原則のコンプライ状況のうちプライム市場選択会社のコンプライ率を記載しています。
基本原則3【適切な情報開示と透明性の確保】 (コンプライ率:99.89%)
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
法令に基づく開示は概ね適切に行われていると思いますが、法令に基づかない情報提供となると各社の姿勢は様々です。どのような情報を提供するのか、提供する形態やタイミングはどうするかといった基本的な方針が定まっていないことや、経営陣がそもそも情報開示に関心がないことが情報提供の取り組み不足に繋がっています。
経営上の機密にあたるような情報は簡単に開示するわけにはいきませんが、積極的な情報開示は経営の透明性向上を意味し、隠し事のない経営陣はそれだけステークホルダーから信頼されるでしょう。つまり、質の高い情報開示を心掛けることで経営陣は株主等の支持を得やすくなります。
原則3-1【情報開示の充実】 (コンプライ率:96.95%)
上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。
(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
(ⅱ)本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明
経営方針等を説明することは上場会社であれば主体的に行っているところですが、役員の報酬や指名に関する方針を開示することに抵抗を覚える企業は少なくないはずです。日本の企業では報酬と指名は実質的に社長の専権事項となっていることが多く、方針を開示することはその権限を社長が手放すことを意味するからです。
そうなると、曖昧な表現の方針により社長の権限を損なわないようにするか、確固たる方針を設定することで社長は報酬・指名から手を引くという二択になります。しかし、前者では魂胆が見え透いているので投資家の理解がなかなか得られないでしょう。
後者を選んだ企業の中には報酬・指名委員会の設置まで踏み込むところもあり、最近の調査によればプライム市場の約8割の企業が委員会を設置しているようです。社長が権限を手放したことを明示するには委員会設置がもっとも合理的な手段ですし、投資家側からも設置の要望を出してきた結果と思われます。
補充原則3-1① (コンプライ率:99.73%)
上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。
経営戦略等あまり具体的に情報を開示すると機密事項が競合他社に伝わることになりかねないものは仕方ありませんが、そのような恐れのない情報でも具体性に欠ける情報開示は少なくありません。開示文書の見出し以外の付加情報のないケースもあり、何のために開示しているのか首を傾げることもあります。情報利用者の顔が見えておらず、したがってどのような情報を開示すると付加価値が高いのか分からないというのが企業側の実態ではないかと思います。
補充原則3-1② (コンプライ率:85.36%)
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。
後半部分は2021年改訂時に追記された内容です。
補充原則1-2④でも述べているところですが、英語版の推進は海外投資家の保有率を高めたいという思惑があるように思われます。
英語版を用意すること自体を否定するわけではありませんが、機械翻訳でもかなり精度の高い翻訳が可能となった現代において、英語版を用意することよりも日本語版が容易に入手できることのほうがよほど重要であろうと考えます。
補充原則3-1③ (コンプライ率:66.70%)
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
2021年改訂時に新設された補充原則です。
サステナビリティ・人的資本・知的財産・気候変動と近時のキーワードへの対応状況について開示することを求めています。とくに、プライム市場上場企業は、気候変動については事業への収益インパクト等も示す必要があり、TCFDに参加していない企業にとってはかなり高度な情報開示が求められています。
補充原則2-4①でも述べたように、人的資本については開示を義務化することが検討されています。
原則3-2【外部会計監査人】 (コンプライ率:100%)
外部会計監査人及び上場会社は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべきである。
これも当たり前のことが述べられているだけの原則で、企業運営が順調であれば監査法人(外部会計監査人)と企業の間では問題が生じないでしょう。しかし、企業がつまずき始めると、企業側は決算書が適正であるという監査結果を求めて圧力を掛けたくなることや、企業と契約して監査報酬を受け取っている以上は監査法人にも企業に迎合するインセンティブがどうしても残ってしまうことから、適正な監査を確保することが難しくなってきます。
補充原則3-2① (コンプライ率:99.35%)
監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(ⅰ) 外部会計監査人候補を適切に選定し外部会計監査人を適切に評価するための基準の策定
(ⅱ) 外部会計監査人に求められる独立性と専門性を有しているか否かについての確認
上場企業の多くが大手監査法人を会計監査人に選んでいるわけですから、それらについては独立機関が評価・確認したほうがいいのではないでしょうか。独立機関が対象としていない会計監査人を選定する場合のみ監査役会の説明を求めればいいことになりますし、独立機関が評価対象としていない監査法人をあえて会計監査人に設置したいとする点を投資家もしっかりチェックするようになるでしょう。
補充原則3-2② (コンプライ率:99.78%)
取締役会及び監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(ⅰ) 高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保
(ⅱ) 外部会計監査人からCEO・CFO等の経営陣幹部へのアクセス(面談等)の確保
(ⅲ) 外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保
(ⅳ) 外部会計監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合や、不備・問題点を指摘した場合の会社側の対応体制の確立
この補充原則内に記載のある対応は、企業側が会計監査人の役割を正しく理解していないことに多くが起因しているのではないかと思います。
決算期末から開示までの短い期間の中で休日返上してまで会計監査に当たっているにもかかわらず無理なスケジュールを組んだり、事業に関係ないからとヒアリング面談から逃げることで間接的に監査を妨害したり、といったことが起きているのではないでしょうか。
また、不備や問題点が見つかった場合、是正することよりも指摘事項リストから削除してもらうことにエネルギーを注いでいるのではないでしょうか。
適正な決算書を速やかに開示するという目標が共有されていれば、無駄に労力と時間を消費するようなことはしないはずです。
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