※コンプライ率:『コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)』(東証)にて公表されている各原則のコンプライ状況のうちプライム市場選択会社のコンプライ率を記載しています。
原則4-4【監査役及び監査役会の役割・責務】 (コンプライ率:100%)
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、監査役・外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。
また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。
監査役の責務を独立した客観的な立場にて果たすことが求められています。監査役は本来それぞれが独立した立場であるべきですが、社内から選ばれて監査役に就任した場合、社長から独立した立場を保つことができるのか疑問です。
監査役は経営が正しく行われていることを株主に保証するために本来存在しているわけですが、社内から選ばれた監査役では誰に対して責任を負っているのか曖昧となり、保身として自身の守備範囲を狭めてしまうのではないでしょうか。
補充原則4-4① (コンプライ率:99.78%)
監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。また、監査役または監査役会は、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべきである。
常勤の社外監査役というケースもなくはないですが、常勤監査役は社内から選ばれているケースのほうが圧倒的に多いです。監督者である社外取締役・社外監査役・常勤監査役(社内)のうち、独立性の点では社外監査役と社外取締役に重複感があります。しかし、監督側代表が面談や会見に臨む場合は社外取締役の出番となることがほとんどで、監査役が出てくることはまずありません。社外監査役は監督者として期待されていないということでしょうか?
監査役会の実効性を求めるならば常勤監査役は社外役員に限定するのが効果的と思われます。社内から選ばれた監査役は会社の事を熟知しているメリットがある一方、社長の意向を無視して動くことは期待できないからです。もっとも、責任や負担が重すぎて就任を渋られることになりそうですが。
原則4-5【取締役・監査役等の受託者責任】 (コンプライ率:100%)
上場会社の取締役・監査役及び経営陣は、それぞれの株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ、会社や株主共同の利益のために行動すべきである。
取締役・監査役が株主に対する受託者責任を認識し、会社や株主共同の利益のために行動すべきという原則は株式会社という制度が創設された時より存在するのですが、改めて確認しなければならないのは、それだけ株主が蔑ろにされてきた経緯があるからです。
ステークホルダーとの適切な協働という考え方は文言としては比較的新しいものですが、従業員・顧客・取引先・債権者といった企業を取り巻く関係者とも適切な関係を維持していかねば持続的な成長が難しいことは今も昔も変わりありません。ステークホルダーの中に地域社会を加える考え方は比較的新しい概念かもしれませんが、これも心ある経営者ならば昔から心掛けてきたことです。
原則4-6【経営の監督と執行】 (コンプライ率:99.95%)
上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである。
社外取締役の活用については原則4-8にて述べられているため、ここでは社外性のない(社内から選ばれた)取締役が対象と考えられます。
社長が会長に退いた際にあわせて執行から監督に移るようなケースが考えられます。この場合、後任社長からは独立しているでしょうが、後任社長が会長から独立しているかが問題となってきます。会長は客観的に意見を述べているつもりでも、後任社長がそれを意見ではなく指示と受け止めていれば、会長は実質的に業務の執行に携わっていることになりかねません。業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用というのは実は難易度がかなり高いと思われます。
原則4-7【独立社外取締役の役割・責務】 (コンプライ率:99.89%)
上場会社は、独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待されることに留意しつつ、その有効な活用を図るべきである。
(ⅰ)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
(ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(ⅳ)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
簡単にまとめてしまうと、社外取締役(独立性基準と社外性基準は完全に一致しないので独立社外取締役と社外取締役はイコールではありませんが、独立性のない社外取締役をあえて外して考える理由もないので、ここでは社外取締役と表記しました)は企業価値を高めることに意を注ぐべきであり、企業利益・株主利益を損なうような行為に目を光らせるべきということです。この中でも特に重要と考えるのが経営陣幹部(とくにCEO)の解任です。直前まで席を同じくしていた人に引導を渡すことはかなりのエネルギーを必要とすることと思いますが、必要な時にそれが為されないのであれば責務を果たしているとは言えないでしょう。
原則4-8【独立社外取締役の有効な活用】 (コンプライ率:92.33%)
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。
また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。
本コードが制定される前はガバナンスのために社外取締役を設置する企業は少なかったところ、会社法による義務化や本コードが2名以上の設置を求めるようになったことで大きく様変わりしました。当初は適当な人材が不足していると反対の声も多かったですが、頭数的にはとりあえずクリアできているようです(数は揃っても質の問題は依然として残ります)。
しかし、これはまだ過渡期の対応であり、取締役会が経営監督を主体とするモニタリング・ボードに転換すべく、原則の後半部分にもあるように独立社外取締役が過半数以上となるようにするのが最終ゴールと考えられます。
社外取締役から得られる助言等が有用という実感があれば執行側としても社外取締役の数を増やすことに対する抵抗感も和らぐのではないかと思いますが、そうでなければ社外取締役は単なる法令対応のコストに過ぎないと映るでしょう。後者ならば取締役の総数を減らすことで数量基準を満たそうとするでしょうが、前者ならば取締役の総数を減らさずに社外取締役の数を増やすでしょう。
なお、数量基準は2021年改訂時に更新されています。
補充原則4-8① (コンプライ率:96.30%)
独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、例えば、独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである。
社外取締役・社外監査役は様々なバックグラウンドを有しており、したがって各々の視点で企業のことを見ています。それだけでも取締役会において貢献できると考えられますが、
社外役員のみの会合の場を設ければ、取締役会という公式な場よりも制約を感じることなく話ができること、重要な論点について社外役員間で整理ができること、それぞれの視点を交えることで新たな気づきが生まれること、といったメリットがあり、ひいては取締役会での議論をより有意義なものとしてくれる効果が期待できます。
補充原則4-8② (コンプライ率:94.83%)
独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。
社外取締役の代表者を決めるというやり方でも問題はないのですが、社外取締役が取締役会議長に就けば自ずと経営陣や監査役と連携しやすい立場に落ち着きます。
補充原則4-8③ (コンプライ率:73.37%)
支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。
2021年改訂時に新設された補充原則です。
東芝の例を見れば分かるように、支配株主から派遣された取締役は支配株主の利益を最大化することしか考えていません。それが少数株主も含めた株主全体の利益になるならばいいのですが、少数株主の利益を損なうことで支配株主の利益を最大化するようなことは排除しなければなりません。(東芝の場合、経営が混乱していることで少数株主の利益が損なわれていると考えられますが、株主総会の場で起きているため少数株主としては抗うことができません)
原則4-9【独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】 (コンプライ率:98.53%)
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。
コードの「背景説明」を見ると、本原則は投資家側の独立性基準に対抗できるように自前の基準を策定しなさいと言っているように読めます。しかし、独自の基準を有しているからといって投資家が自身の基準を見直してくれるわけもないので、この説明には違和感があります。
原則の文言を素直に読んで、取締役の独立性の実質面を厳格に見ることを求めていると考えるのが妥当ではないでしょうか。
筆者が以前調査した企業の例では、基準を満たした取締役の経歴を深堀すると、社長と当該取締役は過去において別会社の同じ職場の先輩・後輩であったことが判明しました。つまり、トモダチを独立社外取締役として設置したわけです。社長との関係性から実質的に独立性は有していないのではないか、社長のイエスマンとして建設的な議論は期待できないのではないかと疑念が生じたケースであり、東証の基準さえクリアできていれば独立性の点で問題なしと考えるのは安直です(東証への届け出においては基準をクリアできていれば有効です)。
原則4-10【任意の仕組みの活用】 (コンプライ率:97.39%)
上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。
会社の機関設計には監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の3形態があります。
指名委員会等設置会社は法定の指名・報酬委員会を有していますが、他2形態はそのような機能を有していないので後述の補充原則4-10①にあるように任意の諮問委員会設置で補おうという趣旨です。
法定委員会ならばその委員会が承認した事項は取締役会の決定事項にもなりますが、任意の委員会ならば取締役会は委員会の意見とは異なる判断も可能であるため、委員会の意見が無視されないようにする工夫が必要となります。
補充原則4-10① (コンプライ率:77.75%)
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、指名や報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきである。
特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。
2021年改訂時に追記のあった補充原則です。独立した諮問委員会を指名委員会・報酬委員会に限定し、取締役会の構成や後継者計画も重要な事項として明記されました。監督機能の実効性を高めることにはならない指名・報酬以外の諮問委員会を設置してコンプライしているとした企業もあったので見直されたようです。
コードを「背景説明」にある通り、取締役会が説明責任の確保や実効性の高い監督機能を発揮するためには指名・報酬に係る判断において独立した客観的な立場からの判断が求められ、任意の指名・報酬諮問委員会の設置や、監査等委員会が有する株主総会における意見陳述権を活用するといったことが挙げられています。
しかし、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社の採用とあわせて任意の委員会を設置するならば、法定委員会を設置する指名委員会等設置会社を採用しない理由を十分に説明できるのでしょうか?監査役会設置会社が段階的にガバナンスを強化すべく任意の委員会を設置し、更なる強化を展望するならば理解もできますが、監査等委員会設置会社への制度変更とあわせて任意の委員会を設置するとなると、指名委員会等設置会社に転換しなかった理由が分からなくなります。
監査等委員会の意見陳述権の活用も考慮されていますが、取締役会が株主総会に提示した役員選任案・報酬案について監査等委員会は反対であると意見を述べることになります(賛成ならば意見陳述の必要はない)。例えば、任意の指名委員会が作成した選任案を無視して別の選任案が取締役会にて承認された場合に、株主に注意を促すべく監査等委員会に許された最終手段です。この権利行使はガバナンス軽視を回避するためのセーフティーネットにすぎず、背景説明に盛り込まれたことに疑問を感じます。


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