株主総会議案に対して反対推奨:みずほvs議決権行使助言会社

2022-06-10

エンゲージメント みずほ

議決権行使助言会社とは

 議決権行使助言会社とは、投資家に対して株主総会の議案について賛成・反対のアドバイスを出すことを業としている企業で、Institutional Shareholder Services(以下、ISS)とGlass Lewis(以下グラスルイス)の2社による寡占状態にあります。

 あくまでもアドバイスなので議決権行使の最終判断は投資家が行いますが、契約している機関投資家は多く、その投票行為に大きな影響力を持つとされています。その影響力を看過できなくなったことから、スチュワードシップ・コードの規制対象範囲に含まれるようにもなりました。

 賛否の推奨についてガイドラインは公表されているものの、個別のアドバイスは契約者である投資家と調査対象企業にしか開示されません。単に定量基準に抵触しただけで反対推奨となるため、企業側からは開示情報に基づく形式的な判断が多いと批判を受けることもしばしばです(開示情報に基づく判断が間違っているというならば情報開示が不十分ということにほかならないので、筆者としては的外れな批判と考えています。「正しい」判断のためにも情報は積極的に開示するべきしょう)。

みずほ総会議案への反対推奨

 さて、ここからが本題ですが、みずほフィナンシャルグループが6月の定時株主総会に向けて議案内容を開示したところ、議決権行使助言会社の2社から取締役選任案の一部について反対推奨を受けました。両社とも反対推奨の内容は開示していませんが、みずほが見解を示すうえで推奨内容を示しています(みずほの見解はこちら)。

 以下の5名については一連のシステム障害に関連して以下の理由から反対推奨を行っているとのことです。

  • 若林資典氏(社内取締役) ⇒ リスク管理グループ長としての責任(ISS・グラスルイス)
  • 平間久顕氏(非執行社内取締役) ⇒ 監査委員・リスク委員長としての責任(ISS)
  • 佐藤良二氏(社外取締役) ⇒ 監査委員としての責任(ISS)
  • 小林いずみ氏(社外取締役) ⇒ リスク委員としての責任(ISS)
  • 甲斐中辰夫氏(社外取締役) ⇒ 監査委員としての責任(ISS)・指名委員長としての責任(ISS・グラスルイス)

 システム障害とは別の理由から、1名が反対推奨を受けているとのことです。

  • 今井誠司氏(社内取締役) ⇒ 政策保有株式保有額が定量基準を超過(ISS)

今井氏への反対推奨

 今井氏については、そもそも非執行の会長職は必要なのかという疑問がありますが、この点については両社とも踏み込んでおらず、政策保有株式の点で判断しているに過ぎません。ISSのガイドラインによれば、政策保有株式の保有額が連結純資産額の20%以上の場合は会長候補(いない場合は社長候補)に対して反対推奨するとありますので、その通りの対応となっていることが確認できます。これに対し、政策保有株式の削減に取り組んでいることを評価してくれていないとみずほは不満を表明しています。

 実はグラスルイスにも同じような定量基準があるのですが、保有額の削減が確認できれば反対推奨しない場合もあるという但し書きが設けられており、今回はそれに該当することから反対推奨としなかったようなので、みずほのISSに対する不満も理解できます。とは言え、みずほが自らの見解の中で示しているように削減計画は後倒しにされており、株主からすれば早く処理して経営効率を上げるよう求めるのも当然のことです。

システム障害関連の反対推奨

 システム障害関連の取締役候補5名に対する反対推奨については、ISSはリスク管理担当役員・監査委員会・リスク委員会・指名委員会の責務を問うているものと考えられます。一方、グラスルイスは若林氏・甲斐中氏の2名のみを反対推奨としていますが、甲斐中氏については指名委員長として若林氏をリスク管理担当役員に再任した責任を問うているので、システム障害における直接的な責任という意味ではリスク管理担当役員の責任のみを問うていることになります。

みずほ取締役会の傘下に設けられた各委員会の構成は以下の通りです。

  • 監査委員会:月岡隆氏・甲斐中辰夫氏・佐藤良二氏・平間久顕氏
  • リスク委員会:平間久顕氏・小林いずみ氏
  • 指名委員会:甲斐中辰夫氏・小林喜光氏・月岡隆氏・山本正巳氏・小林いずみ氏

 指名委員会について委員長のみが責任を問われる一方で、監査委員会・リスク委員会については委員も責任を問われているので、指名委員会の責任はそれほど大きくないと判断しているものと考えられます(月岡氏のみ監査委員でありながら反対推奨の対象となっていませんが、2021年就任のため日が浅いということで除外されたものと思われます)。

 みずほはその見解の中で取締役としての知見や実績を評価して候補としたと述べていますが、システム障害に関連した責任はないと反論しているわけではないので、責任自体は認めている格好です。

 筆者としては、取締役の監査監督機能が働いていなかったことがシステム障害の一因と考えていますので、ISSの判断には賛同する一方、リスク管理担当役員のみにフォーカスしたグラスルイスの判断には疑問を感じます。社外取締役の責務についての考え方が2社で異なるということなのかもしれませんが、当局から経営責任を問われるような事案でも社外取締役の責任が問われないならば、どのような場合に責任が問われるのでしょうか?

 ISSはかなり厳しい判断を示しましたが、筆者は取締役会議長や指名委員についても責任を問うべきと考えています。一連のシステム障害を引き起こしながらシステムに関する知見のないCIOを更迭しなかったこと、金融庁が介入するまで経営責任について検証しなかったこと等取締役会や指名委員会が機能していないことが理由として挙げられます。

 6月21日株主総会に向けて機関投資家が最終的にどのような判断とするか気になるところです。2社の意見が揃った若林氏・甲斐中氏の続投は厳しいのではないでしょうか。


《6月23日追記》
 21日株主総会にて取締役は全員承認されました。甲斐中氏・若林氏をはじめとして反対票を多く投じられた候補は複数いましたが、反対率はせいぜい3割程度に止まりました。
 株主リストを見ると、機関投資家と思われる株主は約3割程度いるようですので、機関投資家の大半は反対票を投じたものの、それ以外の株主が追随することはなかったものと考えられます。
 業績期待が低いだけに機関投資家の保有率が低かったことや、持ち合い株や持株会等の安定株主工作が効果を発揮したことに加え、個人株主は総じてシステム障害とそれによって業務改善命令を受けていることについてあまり関心を持っていないことが結果として取締役選任案を支持したものと思われます。


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