しかし、そのガバナンス態勢に対する評価が、企業評価すなわち株価に与えている影響ならば計測できる可能性があります。
コーポレート・ガバナンスが企業評価に与える影響を計測する
早稲田大学大学院客員教授の柳良平氏(元エーザイCFO)が、ESGの価値はPBR(株価純資産倍率)に現れるとの考えに基づく柳モデルなるものを提示しています。概要については、その内容が記されたダイヤモンド誌の記事をご参照ください。
日本企業が保有する100円は50円の価値になる?:ESGのGが企業価値に影響する
PBRは企業の時価総額が純資産の何倍であるかを示す尺度であり、純資産を活用して付加価値を創出している企業ならば、その付加価値分によって時価総額が純資産を上回ることになります。この付加価値分にはESGによる価値を含むと定義したのが柳モデルです。
ESGへの取り組みに対する評価がPBRに現れているとするならば、欧米企業のPBRの水準は高く、ESGへの取り組みが遅れている日本企業のPBRは欧米企業に較べて総じて低いことで知られていますので、柳氏の考え方は実際のPBRの動向と整合性があります。
筆者が関心を持ったのは、この柳モデルそのものではなく、ガバナンスがどの程度企業価値に影響を及ぼしているかについて調べた柳氏の実証研究です。
柳氏は日本企業は多くの現金・有価証券を有していることに着目して投資家サーベイを実施しています。日本企業が有している現金・有価証券をどのように評価すべきかという問い掛けです。
サーベイの結果、投資家は59%程度で評価しているとなっており、海外投資家はより厳しく52%程度で評価しています。現金・有価証券が将来において企業価値向上に資する投資等に活用されると考えるならば額面の100%以上と評価できますが、企業価値向上のために活用されないと考えるならば100%以下の評価となります。5割程度の評価ということは、それだけ無駄にするだろうと見られていることになります。
また、柳氏の研究では、保有する現金に対する評価が、コーポレート・ガバナンスが良い企業で52-86%、悪い企業で10-37%という結果になっています。有価証券も含めた評価では、それぞれ67-78%・0-4%となっています。
米国企業に対する研究事例では、コーポレート・ガバナンスが良い企業で127-162%、悪い企業で42-88%という結果とのことですから、日本企業に対する評価が格段に低いことが分かります。
これらの実証研究はガバナンスと企業価値に相関関係があることを示したにすぎず、因果関係を証明したものではありません。しかし、保有現金や株式持ち合いが多すぎる、有効な投資等に活用されていない、といった投資家からの日本企業におけるガバナンスに対する批判が企業価値にしっかり反映されていると考えるに足る内容です。また、裏を返せば、日本企業は実効的なコーポレート・ガバナンスに取り組めば、それだけで企業価値を向上させることができる可能性があることを示唆しています。
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