筆者は暗号資産業界をフォローしていなかったので、買収騒動が起きているなという程度の認識のところ、いきなり経営破綻したので驚きました。
破綻に至るまでの経緯を見てみると起こるべくして起きた経営破綻ですが、業界大手とはいえ非公開企業につき情報開示がさほど行われていなかったため、FTXの経営状況について把握するのは難しかっただろうと思われます(仮に財務諸表が開示されていたとしても、そこには計上されない顧客資金を流用しているため実態把握はやはり困難だったろうと思われます)。
経緯
まずは、海外の主要メディアからピックアップした破綻に至るまでの経緯の概略です。
How Sam Bankman-Fried’s crypto empire vanished overnight
How Sam Bankman-Fried’s Crypto Empire Collapsed
Alameda, FTX Executives Are Said to Have Known FTX Was Using Customer Funds
2017年~
サム・バンクマン=フリード氏(以下、SBF氏)は取引所間でビットコインに価格差があることに気づき、裁定取引を開始。
その後も裁定収益を追求すべく、運用会社アラメダ・リサーチを設立。→ポジションを増大させるとともに、取引内容も複雑化。
2019年~
アラメダの成功を受けて、暗号資産取引所FTXを開設。
FTXも順調に進んだことで、融資を受けながら暗号資産関連会社に投資。
2022年~
暗号資産の急落を受けて傾いた暗号資産業界を支えるべく大型融資を受ける。
追証や融資回収を受けて資金繰りがタイトになったことで顧客資金を流用。
ライバル会社に支援を求め、バイナンスによる買収に合意するも、翌日には撤回される。
撤回発表を受けて破綻は不可避となり、チャプター11申請し、現在に至る。
SBF氏や経営層による不適切な行為は事欠かないのですが、
Filing reveals staggering mismanagement inside FTX10 crazy things detailed in FTX’s bankruptcy filing
破綻に至った直接的な原因としては裁定取引をはじめとする暗号資産関連の取引によって巨額のエクスポージャーを膨らませていたことと、それを実現するために融資によって高レバレッジにしていたということです。
これらの経緯を見ていると、昔のLTCM破綻を彷彿させます。結局、マーケットにおける大失敗はエクスポージャーの集中と高レバレッジにつきるのかもしれません。
問題点
創業者CEOのSBF氏が放漫経営を続けた結果であることは明白で、CEOの暴走を牽制する仕組みがなかったことからガバナンスに問題があったことは疑いようがありません。問題があったというよりも、ガバナンスが欠如していたというべきかもしれません。
投融資した株主や金融機関はFTXの何を見て判断したのか分かりませんが、FTXの経営状態に不安を感じることはなかったのでしょうか?
メディアが報じている内容を見る限りではSBF氏は各種の不正を巧妙に偽装していたとの印象は受けませんから、しっかりと調査をした投融資者は見合わせ、調査しなかった投融資者が残ったということでしょうか。
FTXの経営態勢に諸々問題があったことは言うまでもないのですが、それよりも筆者が一番の問題と感じるのは、大手取引所として多額の顧客資金を預かっている企業が当局の監督を特に受けることもなく野放しになっていることです(米SECなどには登録義務があったりしますが、取引所としての存在が認知されるだけで監督を受けているとは言い難いです)。
これが銀行や証券会社であったならば、監督当局が経営状態をはじめ預金者や投資家の保護のための態勢等々微に入り細を穿つ検査を行いますので、このような放漫経営が許される余地はありません。
当局が検査を行っても銀行・証券会社における問題は直近のみずほや日興SMBCのように度々起きるわけですから、監視の目がない状態ならば正にやりたい放題です。
その結果、顧客資金に手を付けるということが起きているならば、それは経営の怠慢というだけでなく、もはや犯罪です。
顧客資金が保護された状態で取引所が経営されているかどうかは利用者としては実態を確認しえないのですから、当局検査により確認するしかないのではないでしょうか。
二つ目の問題は、取引プラットフォームを提供するFTXと資産運用を行うアラメダ・リサーチの2社がSBF氏の支配下にあり、両社間にはファイヤーウォールが存在していなかったことです。
これが暗号資産ではなく株式であったならば、取引所と運用会社を同じ経営者の支配下に置くことはご法度となっている国が多いです。
債券であったならば取引所は存在しないことが多いので、取引プラットフォームを提供するのは証券会社ということになります。
大手証券会社ならば運用を行う自己売買部門か運用子会社を有しているのが一般的ですから、FTXとアラメダの両機能を自社グループに内包していることになります。
それならばFTXも問題ないように見えますが、ファイヤーウォールの有無が問題となってきます。
明確な規制が必ずしもあるわけではありませんが、両機能間の情報共有だけでなく、取引状況も監視対象となってきます。
例えば運用子会社が売買取引の多くを自社グループの証券会社に発注しているだけでも資金移動や取引執行において不正が生じているのではないかと疑われる可能性が高まります。
監視の目がないのですから、好きなように両社間で取引が行われる。しかも、移動させた資金が顧客資金という状況までも許してしまっています。ここもやはり当局検査によってファイヤーウォールが機能していることを確認する必要があるのではないでしょうか。
業界全体のガバナンス強化が求められる
FTXにおけるガバナンスは論外ですが、他社の置かれている環境も似たようなものですから同様にガバナンス面で問題を抱えていると見るべきでしょう(上場により株主から監視されている場合もあるかもしれませんが)。
つまり業界全体のガバナンス問題であり、態勢を整えさせるためにも金融機関並みの当局監督が必要になっているということです(当局監督があれば万全ということにはならないですが)。
もっとも、日本の金融当局としては、FX業界についてさえ未だに整理ができておらず、業者が破綻しても場当たり的に対応しているだけですから、暗号資産業界ともども放置した状態が続くことになるのかもしれません。
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