大株主のオアシス・マネジメントが招集を請求したことで開催の運びとなったものです。
企業が臨時株主総会を開催することは珍しくありませんが、株主からの招集請求による開催はなかなかレアではないでしょうか。
株主が経営姿勢に異議を唱えるものであり、且つ定時株主総会まで待てない事情を伴うからです。
両者の対立は随分と続いていますが、今回の事案は、オアシスが社外取締役全員の解任を求めるとともに、オアシスが推薦する社外取締役候補者の選任について株主提案しているものです。(役員報酬についての議案もありますが、ここでは取り上げません)
疑わしい関連当事者取引が多数あることは前回事案よりオアシスが問題視していることですが、創業家出身の内山高一氏(前社長・現会長)が会社を私物化しているのに監督責任のある社外取締役が看過しているというのが今回事案のオアシスの主張の趣旨です。(前回事案についてはこちらをご覧ください)
前回は内山氏の再任を阻止することでオアシスは経営の正常化を図ろうとしましたが、定時株主総会直前でフジテックは再任議案を取り下げ、代わりに取締役ではない会長として選任しました。
関連当事者取引の正当性について確認でき次第、取締役社長に再度選任を求めるとの説明が為されていますから、内山氏は肩書が変わっても実質的な経営トップであることが分かります。
昨年6月に、関連当事者取引の正当性について検証する第三者委員会を設置する方針をフジテックは公表していましたが、8月になってようやく第三者委員会を設置したと発表しています。
第三者委員会による検証結果はいまだ発表されていません。設置から5か月も経過しているわけですから、随分と時間を掛けています。
それだけ関連当事者取引が多いということもあるでしょうが、検証にそれだけ時間を要する取引内容ならば、そもそも取引開始前に取締役会はしっかり精査できていたのかという疑念が生じます。
結果公表に時間を要しているのは、カレンダー上の都合も考慮されてのことではないかと考えられます。
関連当事者取引に問題はないという結論であるとすれば、フジテックは内山氏を社長に復帰させるための手続きに進ことになります。
具体的には、6月の定時株主総会にて選任議案を提示することから日程を逆算すると、おそらく3月末までに報告書を受領し、4月中に選任議案を取り纏める予定でスケジュールが組まれているのではないでしょうか。
株主総会の日程に近いところで報告書を受領するのは、内容にクレームするであろうオアシスが反応できる時間をできるだけ短くしたいからです。
オアシスとしては第三者委員会の結論が何であれ、内山氏を経営から排除したいわけですから、そのためには内山氏の選任議案を取締役会の段階で阻止するのが効果的です。
フジテックの取締役会は社外取締役が過半数を占めているので、これを入れ替えれば内山氏を社長復帰させることは困難になります。これが今回のオアシスの狙いと考えられます。
また、上記のスケジュールを想定すれば、このタイミングで社外取締役を入れ替えなければ間に合わなくなります。
フジテックは、オアシスの提案内容について、事実誤認あるいはミスリードがあると指摘したり、取締役候補者は取締役としての資質に欠けるとして、全面的に反対しています。
当事者として意見を表明するのは当然のことですし、株主総会までもつれ込んでいるので会社としては強く反対していることは意見表明がなくとも明らかなわけですが、フジテックの反対意見の内容はオアシスに対する嫌悪感が先行しすぎて本質を見失っている気がします。
例えば、オアシスが株主提案内容を何度も修正したと非難していますが、修正すべき点があれば修正するのは当然なのではないでしょうか。それとも、修正すべき点を隠したまま当初内容で押し通すべきという考えなのでしょうか。
また、オアシス推薦の候補者は上場企業の役員経験がないからと問題視しています。経験があったほうが望ましいのは理解できますが、経験がないからダメだと言い切って大丈夫なのでしょうか。今後は役員未経験者は候補者として一切考慮しないということなのでしょうか。
もちろん、オアシスの言い分をすべて鵜呑みにすることもできません。
しかし、両者の言い分は株主提案を考慮する上では必ずしも重要ではないかもしれません。
関連当事者取引が多数あり、それについてのフジテックからの説明に誠実さがないことは事実です。(株主提案に対する反論に15ページを費やすことができるならば、取引についての説明にも同じぐらいのエネルギーを注いでもいいのではないでしょうか)
このことにより、内山氏が会社を私物化しているとの疑念が生じているわけですが、これについては疑念を深めるだけの材料をオアシスは提示しています。しかし、確たる証拠はありません。
不誠実な対応により内山氏の社長再任議案に矛先が向かったため、フジテックは議案を取り下げ、代わりに内山氏を株主総会の承認を要しない会長職につけました。
この一連の流れの中で、現任の社外取締役は監督責任を果たしたと言えるのかが今回事案のポイントです。
関連当事者取引に問題があるならば、当然ながら監督責任は果たされていないことになります。
取引に問題がなかったとしても、それをしっかり説明しようとしない取締役会を監督できていないと言えます。
しっかり説明しなかったことで、株主による否決が確実視されていた社長再任議案を株主総会直前に取り下げる羽目に追い込まれましたが、社長選任は社外取締役としてもっとも重要な役割期待ですから、株主の期待に応えられていないという点で責任が問われます。
その後、内山氏を会長職とすることを取締役会は承認しているわけですから、株主が承認しない人物を経営の一端に引き続き置くことを社外取締役は許しており、適切に監督されているのか疑問が残ります。(再任議案を取り下げたということは、経営者として適格ではない、少なくとも適格ではない可能性があると会社が認めたことになるので、そのような人物を会長職に置くことの説明がつかないはずです)
オアシスが推薦する候補者を社外取締役とすればガバナンスが必ず向上するとは言えませんが、少なくとも現任の社外取締役が監督責任を十分に果たしていないと考えるならば解任議案については考慮してもいいかもしれません。(ただし、代わりも選任しないと執行側取締役が多数派となるので、監督機能が損なわれます)
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