プルデンシャル生命 ガバナンスを蔑ろにする企業風土が不祥事を招く

2026-03-30

ガバナンス プルデンシャル生命 不祥事

 プルデンシャル生命にて大規模詐取の不祥事(以下、本事案)が発覚して以降、新たな疑惑が後を絶たず、不祥事のデパートといった不名誉な称号が冠されるようになりました。

プルデンシャル生命金銭詐取、「報酬制度見直す」社長が陳謝 補償へ第三者組織

プルデンシャル生命保険で新たな不祥事疑惑/支社長がマッチングアプリで金銭トラブル


 本事案に係る会社会見では、報酬制度に問題があるとの説明がなされていました。つまり、インセンティブが強すぎるが故に社員の暴走を招いてしまったという言い訳です。

 しかし、親会社のある米国側でも不祥事が報じられていますので、社員個々人のモラルの問題だけではなく、企業風土としてモラルが欠如しているとの印象を強く受けます。

Gov’t: Prudential illegally denied life insurance claims


 会見で指摘のあった報酬制度ですが、簡単に言ってしまえば完全歩合制で、契約を取れば報酬が得られるものです。

 成果報酬を是とするならば当然の仕組みの一つのようにも思えますが、制度設計がしっかりしていないと問題含みです。

 プルデンシャル生命の制度では、契約が継続している間ずっと報酬が払われるわけではなく、契約取得当初に支払われる仕組みになっています。

 契約をどんどん取れる営業マンの報酬は青天井である一方、契約がなかなか取れなくなった営業マンは生活費の確保すらままならない状況に陥ります。

 前者の営業マンには引き続き頑張って契約を取ってきてほしい、後者の営業マンは会社から去ってほしいという組織の思惑が反映された制度となっています。

 とはいえ、営利企業である以上は利益をもたらす社員が優遇されるのは至極当然のことですから、成果報酬自体を否定する理由はありません。


不祥事を招いたのは報酬制度ではない

 問題の一つは販売している商品が生命保険であるということです。

 金融商品には大概当てはまることですが、販売する会社が違っても商品にはほとんど違いがありません。

 保険の場合は、保証の適用範囲が異なる、保険料が異なるぐらいの違いしかなく、その差も微々たるものです。

 しかも、生活するうえで必須のものではないので、結局は営業マンの「人間力」によって契約を取り付けるしかありません。

 これが、多くの保険会社が大量の営業部隊を抱えている所以です。

 「人間力」というと「誠実且つ思慮のある人間が顧客のためを思いやって適切な商品を提案」しているテレビコマーシャルで見られるようなイメージになるのではないかと思いますが、セールスする側からすれば「この人の言う通りにすれば間違いないだろう」と思わせることができればいいだけです。

 両者が一致するところであれば、イメージ通りの誠実な営業マンによる適切な商品販売というWin-Winの関係になりえますが、不誠実な営業マンの口車に乗せられて無用な取引契約に至るケースも往々にして発生します。

 乱暴に言ってしまえば営業マンに騙されているわけですが、顧客は営業マンのことを信頼に足る人物だと思っているので騙されていることにすら気づきません。

 被害者たちが「信頼できる人だと思っていたのに、、、」といったコメントをしているのもこういう経緯があるからです。

 そして、この構図は取引に違法性がないだけで、実質的には要らないものを売りつけてカネを騙し取る詐欺と何ら変わりがありません(架空の投資商品ならば当然に詐欺です)。

 そのような営業マンのマインドは詐欺師と大差ないでしょう。


 生命保険の商品性に起因する問題点はもう一つあり、一人の顧客がリピーターとなることがない商品であるということです。

 例えば、証券会社の営業マンであれば同じ顧客に何度でも取引を持ちかけることができますが、生命保険の営業マンは顧客と契約を交わしてしまえば、性質の異なる商品がラインナップにないかぎり更なる契約を見込むことはできず、新たな顧客開拓に向かうしかありません。

 信頼を勝ち取るのには時間と労力を費やすものの、継続的な関係にはならない(会社とは取引関係が継続しますので、あくまでも営業マンの観点)わけですから、営業としては効率の悪い部類です。

 まともな営業マンであれば顧客の家族や知人を紹介してもらうことで少しでも効率よく営業するのでしょうが、まともでない営業マンであれば折角勝ち取った信頼を有効活用して架空の投資商品の話を持ちかけることになります。

 論理が飛躍していると思われるでしょうが、不誠実な営業マンのマインドは詐欺師同然であると先に指摘したことを思い出してください。

 詐欺師と考えれば、騙すことに成功した顧客から出来るだけカネを引き出すのは寧ろ合理的な行動です。別の人間をゼロから騙すよりもよほど簡単なのですから。


役職員の暴走を許さない体制を構築することが肝要

 金融商品の販売には常にこういった危険性が付き纏います。

 そのため、組織内部における管理・監視体制が欠かせないわけですが、利益至上主義に偏重した組織では単なるコストと認識されるため必要な体制構築を厭います。

 これは証券会社でも見られがちな傾向です。

 しかし、証券会社の場合は当局が厳しく監督しているおかげもあって、渋々であっても内部管理体制を構築・運用しています(十分に有効に機能しているかは別問題ですし、某証券会社では当局検査が終わった途端にコンプライアンス担当者が解雇されたという話も聞くので形骸化している可能性は否定できません)。

 プルデンシャル生命では内部管理体制は構築されていたのでしょうか。

 内部の実態は分かりませんが、十分に有効ではなかったとしても運用されていたならば40年に満たない営業期間で100人以上の社員が個々に不正を行うような事態に至るとは到底考えられません。

 内部管理体制が無かったか、あったとしても完全に形骸化していたと考えるのが自然です。

 被害者たちが会社にクレームしても営業マン個人の問題としてまったく取り合わなかったという話も出ているので、やはり内部管理体制は実質的に存在していなかったと考えられます。

 そうなると、会社発表の100人以上の社員による30億円以上の詐取は氷山の一角に過ぎないのではないかという疑念も生じます。


 では、なぜそのような状態が看過されていたのか。

 経営トップから末端の社員まで利益至上主義に染まっていたからとしか考えられません。

 役職員の多くは利益に結び付かない行動は時間の無駄と考えていたのではないでしょうか。

 同僚の営業姿勢や会社の在り方に疑問を持つ役職員がいたとしても、内部通報等を利用して是正を促すよりも、転職して別天地を求めることを選ぶでしょう。

 仮にそのような役職員が声を上げることを選んだとしても、組織は異分子を排除する方向に動くでしょう。

 営利企業として利潤追求は当然のことですが、行き過ぎた利益至上主義を是正することを怠ってきたことは経営陣の職務放棄であり、ガバナンスの欠如がもたらした結果です。

 経営陣がこの認識を持たない限り、報酬制度を見直したところで同じことをきっと繰り返すでしょう。


 筆者個人の考えとしては、会社の正常化には体制整備はもちろんのこと、役職員の総入れ替えによる企業風土の抜本的な改革が必要と思っています。

 しかし、そのようなことは行えないでしょうから、会社の解体が最善の策と考えます。

 それもできないならば、会社体制の抜本的な見直しが行われるまでは営業停止、体制見直しが行われたならば営業再開するも、当局が派遣する監視チームを常駐させ、ガバナンスが適切に機能していることを最低5年間リアルタイムでモニタリングすることが必要と考えます。

 そうすれば5年間の監視期間が終わるころには役職員の総入れ替えも概ね完了し、会社の名前であるプルデンシャル(=賢明な・思慮深い)に相応しい企業に再生する土台ができるはずです。


 筆者として一番疑問に感じるのは、このような企業の存在がなぜ長らく許されてきたのかということです。

 保険会社も当然に金融当局の監督下にありますが、会社体制の不備がなぜ看過されてきたのでしょうか。

 日本の生命保険会社は総じてお行儀がいいからか、当局の監督も証券会社や銀行に比べるとあまり厳しくない印象があります(監督部門が分かれていたことも影響しているのかもしれません)。

 それでも必要な内部管理体制が機能していることの確認はなされて当然のところ、一体何を監督していたのか不思議に思います。

 プルデンシャル生命の経営陣の罪は重いですが、監督当局の責任も大きいのではないでしょうか。


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